奇術師さん1 
以下の文は上のリンクから

NY者さま:(1) 投稿者:マーケットの奇術師  投稿日:12月12日(火)01時27分33秒 tc-2-197.ariake.gol.ne.jp 

はじめまして。NYにお住まいなのでしょうか?

レスをいただき、ありがとうございます。
NY者さまなら先刻お見通しだと思いますが、私の先の投稿では、『リスク』という言葉を
わざと定義があいまいなまま使いました。金融工学的な厳密な定義は別にして、一般の方にも
言わんとすることの概略を伝えたいがための方便ですので、どうかご寛恕下さいまし。

>長期に渡って安定した利益を上げるためにはどの銘柄を選ぶかとか、いつポジションを
>持つかということはほとんど関係なくて、position sizing が全てではないかと個人的には
>思っているのですが、これってほとんど話題にならないんですよねぇ。。。

同感です。折に触れ、マネーマネジメントというものの重要性を指摘してきたつもりですが、
なんにせよこの手の話題はロスカットと平行して論じられることが多いですので、どうしても
後ろ向きの、守備に偏った印象が強くなり、あまりウケは良くないですね・・・ (^^;

さて、ポジションサイズという話になると必ず出てくるのが、optimum-F(最適F値)という
考え方です。

相場というものをごくごく単純なモデルで考えてみますと・・・
勝てば賭け金が2倍になり、負ければ賭け金が没収されるという簡単な賭けがあるとします。
仮に上手な人がいて、常に60%の確率でこの賭けに勝てるものとします。
元金が1億円あり、賭け金は自由に設定できるとした場合、この人は毎回いくら賭ければ、
期待利益を最大にできるでしょうか?

毎回資金全部を賭ける、というのは最も愚かしい賭け方です。勝ち続けている限り、
資金は2億円、4億円、8億円・・・と、文字通り倍々ゲームで増えて行きますが、
一回でも負ければ資金をすべて失ってしまいます。

逆に、毎回10円ずつ賭けていれば、勝っても負けても10円ずつしか資金が増減
しませんから、いくらやってもほとんど資金を増やすことはできません。

多すぎる賭け方は危険で、少なすぎる賭け方は非効率。最適な賭け方は、この両者の
中間にあることは想像できます。たとえば毎回、手持ち資金の10%を賭けるものと
した場合、1回勝てば元利合計は1.1億円、2回勝てば1.21億円・・・というふうに
推移して行きます。

数式でこれを表現しますと、

R=B×(1+F)^(w×n)×(1-F)^((1-w)×n)

但し、Bは当初資金(この場合1億円)、
   Rはn回試行後の元利合計、
   nは試行回数(たとえば100回)、
   wは勝率(この場合60%)、
   Fは掛け率、
   ^はべき乗を意味します。

この式で、Rを最大にするようなF(最適F値)を求めればよい、ということになります。
微分方程式を解かないと答えは出てきませんが、数値的に正解の見当をつけるのは簡単で、
Fを1%から100%まで、1%刻みで変化させて極大になるFを探せば良いのです。
(表計算ソフトなどを使えば、そんなに手間はかからないと思います)
おそらく、この条件であれば、F=0.2ぐらい、つまり毎回資金の20%程度を賭ければ
良い、という結果が出るのではないかと思います。

興味のある方は、勝率や賭けの条件など、いろいろパラメータを変更して、シミュレート
してみますと、面白いと思います。
・勝率が65%、ただし勝った時の賞金が1.5倍しかもらえないケース
・逆に、勝率は55%と低いかわり、勝ったときの賞金が3倍になるケース
など比較してみますと、損小利大の大切さが浮かび上がってくるかもしれません (^_^)

実際の相場は、こんな単純な条件(勝てば賭け金2倍、負ければ賭け金没収)ではなく、
毎回利益や損失のパターンは異なってきます。ですので、過去の結果のパターンを
場合分けし、それぞれの確率で重み付けした確率分布を使って、自分にとっての
最適F値を求めることになります。
たとえば、過去のトレードの結果を集計して、

利益     確率
+50%~  2%
+40%台  4%
+30%台  8%
+20%台  19%
+10%台  25%
損得無し   22%
-10%台  12%
-20%台  4%
-30%台  2%
-40%台  1%
-50%~  1%

というような確率分布表を作り、それぞれを掛け合わせていって、同じように
Fを変化させて最適ポイントを探せば良いのです。

(つづく)


NY者さま:(2) 投稿者:マーケットの奇術師  投稿日:12月12日(火)01時31分27秒 tc-2-197.ariake.gol.ne.jp 

実際の機関投資家などの運用では、理論的な最適F値よりも、はるかに低いところに
Fを設定しています。勝率は常に一定ではなく、短期的には大きく変動しますので、
不振期のドローダウンが大きくなりすぎないようにするため、また市場環境の変化で
一時的に投資手法が通用しなくなるケースを考慮してのものです。
ファンドの運用では、それがたとえ一過性のものであったとしても、資産が半分とか
3分の1とかに減少することは決して許されるものではありませんから・・・。

・・・と、ここまでは前置きでして・・・(前置きが長すぎる ^^;)

私の個人的な考え方は、ポジションサイズはロスカットポイントが決まれば
自動的に決まる、というものです。

損切りするポイントの設定の仕方は、人それぞれだと思います。
たとえば、10%逆行で切る、100円幅逆行で切る、評価損が資産の何%に
達したら切る、テクニカル的に重要な価格を割りこんだら切る、などなど・・・。

私の場合は、「テクニカル的に重要な価格を割りこんだら切る」のが原則ですが・・・

たとえば、時価が1100円で、1000円が絶対防衛線になっている銘柄を手がける
場合を考えてみます。
この銘柄を買うとき、たとえば損切りポイントを980円に置きます。
すると、1100円で買った時のやられ幅は120円ですから、1000株につき
12万円の損失が発生することになります。
一方、資産を仮に1億円とし、1回のトレードで許容できる損失を資産の0.5%と
設定すれば、この取引で50万円までは損をしても良い、ということになります。
そうしますと、50万円÷12万円=約4ですから、時価で4000株まで買っても
良いという計算になります。
実際には、さらに安全係数を掛け、執行リスク(980円をつけてから成行で売っても
980円では売れないかもしれない、など)や手数料などのコストも考え、せいぜい
2000~3000株にとどめておくと思いますけど・・・。

ちなみに、一回のトレードでの許容損失の、資産に対する割合は、もちろん
資産の大きさによって変わってくると思います。私の感覚では、2%とか3%とか
いうのは大きすぎで、せいぜい0.5%以内だと思いますが・・・このあたりは
人それぞれでしょうね。
また、資産と言っても、総資産とか全金融資産ではなく、短期の株式売買に
振り向けている資産枠、と考えておいた方が無難です。

さて、こういう発想でポジションサイズを決めた場合、容易にわかることですが、
テクニカル的に重要な支持ポイントに近いところで建玉した場合ほど、大きな
ポジションを取ることが許容されます。
(たとえば上の例で、1100円ではなく1020円で買えれば、同じリスクで
 12000株まで買えることになります)
ですので、時価からなるべく近いところにロスカットポイントを設定できる
チャンスを狙えば、それだけ大きく勝負でき、ひいては期待利益も大きくなります。

これに対して・・・たとえばアラ石などを考えてみますと、こういう銘柄を手がけようと
する場合、どうしても損切りポイントを離す・・・つまり、相当引かされても損切りに
ひっかからないようにする必要があります。でないと、ちょっと逆に行っただけで
すぐに振り落とされてしまいます。
時価から離れたところに損切りポイントを置くということは、やられたときの損失が
大きくなるということですから、どうしても株数を抑えないと過大なリスクを負うことに
なってしまいますよね。

・・・長くなりましたので、いったんここまでにしておきますね。